デジタル壁画「うご板」

いまだからできる新しい壁画のかたち

宮野中学校では、いつでも改変可能なアニメーション制作手法フレットアニメーションを応用し、学校行事である文化祭での代表的なコンテンツのひとつ「壁画」文化の新たなかたちとしてGIGAスクール構想時代だからこそできる、うごくデジタル壁画を制作しました。

授業開発の流れ

アニメーションについて知ろう

講師から映像の原理やアニメーションの成り立ちなど映像の基礎について紹介します。映像表現による物語の作られ方や、映像手法に対する人の情報認識など、客観的に分析、理解し、映像表現について理解を深めます。


フレットアニメーションを体験しよう

タブレットがあれば、どこでもフレットアニメーションを制作できる教材キットを開発しましたフレットアニメーションとは、失敗の状態がなく、いつでも改変可能なアニメーションの制作手法です。机に置いたものをタブレットのカメラがリアルタイムに4分割で撮影し、アニメーションとして反映します。このアニメーション制作手法は映像作家/研究者である秋田公立美術大学 准教授の萩原健一さん(※)が考案しました。いつでも改変可能なアニメーションなので、制作者である生徒たちは失敗を恐れず、絵の得意不得意やアニメーション作画の経験の有無に関わらず、誰しも気軽にアニメーション原理を学びながら制作に取組むことができます。

全体作品「顔と顔」

生徒たちは「フレットアニメーション」の制作手法を応用し、壁に掲示したタブレット40台に、グループ制作したアニメーションを映し出す壁画を制作しました。

2022年度は「顔と顔」をテーマに、生徒たちがチームに分かれ「目」や「口」、「眉毛」などそれぞれ顔のパーツを担当し、協力して大きな一枚の顔を作りました。

昔から学校で開催される文化祭では、「壁画」は代表的なコンテンツのひとつです。皆で協力して一枚の絵をつくるこの壁画文化の新たなかたちとして、GIGAスクール構想時代だからこそできる、うごくデジタル壁画を制作しました。

生徒それぞれのアイディアで作る個人作品

アニメーション壁画にくわえて、今回は「ジャンピング」をテーマに制作した生徒の個人作品を展示。生徒たちのバラエティに富んだ「うごき」が制作されました。


アニメーション制作の材料には、生徒たちが集めた身の回りにある材料や使わなくなったもの、県内の企業から提供していただいた廃材などを活かし、工夫した作品制作に取組みました。

文化祭で発表!

当日は、全体作品のデジタル壁画「うご板」と、個人作品で制作したフレットアニメーション「ジャンピング」を展示したほか、アニメーション制作に使用した材料や、当日の来場者にむけてフレットアニメーション体験コーナーなども展示しました。


来場者には、展示中もアニメーションを改変し続けられる面白さや、制作者が配置したモノや線がどのような「うごき」を生み出しているのかを生徒の作品を通じて紹介しました。

来場者からは「4コマのみでうごきが生まれることに驚いた」「学校のタブレットで簡単にアニメーションを作れるのがよかった」「自分で工夫して作れるのが楽しい」といった声が寄せられました。

また教員からは「自分の知っている生徒があんな風に面白いアニメーションを作るとは思わなかった」「普段の授業とは違う生徒の一面を見られた」といった意見があり、学校現場において生徒と新しい角度から向き合える機会にもなりました。

本カリキュラムは、従来のアニメーション制作技法のように前後のコマを透過しながらタイムラインを積層する制作思考とは異なり、ひとつの平面状に違うタイムラインを並べることが特徴となります。そのため絵巻物や曼荼羅などの視点や、タペストリーなどの織物パターンのデザイン思考も働かせます。この従来の映像制作には無い思考プロセスを促す点も独自性のひとつです。 

まとめ 

 全体作品と個人作品の両方を用意することにより、生徒たちそれぞれの良さを体感できました。全体作品においは、生徒たちがチームで協力することにより、新たな表現方法や意見をまとめるプロセスを体験できました。一方、個人作品では、生徒たちが自らの興味に基づいた表現を行うことにより、創造性を育むことができました。生徒たちは普段の授業とは異なる新鮮な経験を得ることができ、物や体の動きなどの運動構造への関心を深めることができました。また、生徒たちの創作意欲や自己表現力を向上させることができたと考えています。このようなカリキュラムの設計により、生徒たちは個人で異なるアウトプットを行うこと自然なものとして受け止めることができ、比較的自由な表現の場を提供することができました。

展示を目にした美術教員が興味を持ったこともあり、次年度には、山口市の美術を担当する中学校教員を対象に、フレットアニメーションの研修を実施し、美術の授業での活用を促進していく予定です。また、来年度のモデル校の文化祭においては、生徒たちが制作したデジタル壁画をよりアップデートさせた「うご板」を制作することを計画しています。さらに、山口市内の拠点や施設での壁画展示も検討し、生徒たちの成果物を多くの人に見てもらう機会を提供していきます。



(※)講師紹介

萩原健一(フレットアニメーション開発者)

1978年生まれ。映像作家/研究者。秋田公立美術大学准教授。写真表現を軸に、映像メディアを用いて作品制作を行う。2005年文化庁新進芸術家国内研修として山口情報芸術センター[YCAM]滞在後、2007年、情報科学芸術大学院大学[IAMAS]修了。企業やプログラマーと協働したメディア教育教材の開発を研究の軸としている。

主な展覧会に、scopic measure#6(山口情報芸術センター, 2007)、Media/Art Kitchen(東南アジア, 2013)など。

撮影:塩見浩介

写真提供:山口情報芸術センター[YCAM]