プログラミングトースターでクッキーをデザイン

プログラミングトースター2022年度実施 二島中学校

山口での新しい取組み

  “こどもの創造性をどのように評価できるのか”

家電×プログラミング」によるくらしの中での創造性教育について、継続して研究を行うパナソニック、フードデザイナーとして食べる人や作る人をよろこばせる想像力、そうした食にまつわるあらゆる技術と知識を総合の実践をしてきた中山晴奈、そしてテクノロジーとアートの関係を探求し、教育に活かす取り組みを長年にわたって続けてきたYCAMによる共同プロジェクトです。

パナソニックが教育カリキュラムとして開発したプログラミングトースターを活用し、山口市立二島中学校の生徒たち(1・2年生20名)がクッキー作りを行いました。 (2023年1~2月実施)


このプロジェクトにおける創造性とは、生徒たちが仮説をたてたりアイデアを思いつき、「こうしたほうが面白いんじゃないか?こんなふうにしてみたらどうなるのか?」という試行錯誤、そして新しいものを生み出そうとする発明力や発想力、大人から指示されたことや大人が想定していたことから逸脱して目的に対して自ら起こす行動をさします。

パナソニックの「Scratch Home Project」

パナソニックがこれまで継続的に続けていきたプロジェクト「Scratch Home Project」では、身近なくらしをテーマに自らの価値観に基づいた創作体験と知識獲得機会を提供し、子どもたちの可能性を引き出すことに取り組んでいます。その一環で、プログラミング言語”Scratch(スクラッチ)”を応用したトースターは、Wifi/Bluetooth通信により、庫内温度の取得や遠赤、近赤ヒーターのON/OFFができます。プログラミングにより細かい熱のコントロールを設定することにより、素材・焼き具合など仮説を立て取り組むことができました。


引用元:Panasonic Scratch Home Project ウェブサイトより(https://laboratory.jpn.panasonic.com/project/hclsteam/

科学的視点から知る

生徒たちは、食としてのクッキーをこれまでとは違う、化学と物理の視点からレクチャーを受けました。調理や授業の体験を「楽しかった、美味しかった」という着地点にとどまらない、制作工程から生まれる創造性や学びに注目した授業づくりがスタート。

材料や熱のコントロールを駆使して、クッキーの味や香り、形や食感をデザインするクッキー作りに挑戦します。

食感をデザインする

生徒たちは2〜3人のグループに分かれ、グループごとに異なるオノマトペ(物事の状態を表す擬態語、音を言葉で表した擬音語など)のカードを2枚引きます。カードに書かれている食感のクッキーに仕上げるために、素材の分量や焼き加減などをどのように調整すればいいか仮説を立てながら取り組んでいきます。

素材をコントロールする

自分たちがたてた仮説に基づき、素材の分量を調整したり、新たな素材を加えたりと、オノマトペカードで引き当てた食感に近づけるために工夫しました。バターの力でサクサクな食感や甘いかおりを、タンパク質の力でカリカリの食感や記事をまとめるカタチづくり、砂糖の力はガリガリや甘みを…など、おかしづくりが3つの材料と熱でつくる化学と物理であることを実践します。

クッキーをデザインする

プログラミングトースターで、庫内温度や遠赤、近赤ヒーター、焼き時間などを細かく設定し、クッキーを焼いていきます。焼きあがると試食をし、オノマトペに合った食感に近づいているか?どうしたらもっと近づくのか?をグループで話し合いながら何度も改良を加えていきます。
授業の途中には「だれかためにつくるクッキー」というお題が追加さ自分以外のだれにこのクッキーを渡すか、その人がよろこんでくれるクッキーはどんなものか?といった、主観ではない客観的な第三者を意識したクッキーづくりに奮闘しました。

1回目のインタビュー

調理を終え、生徒に制作過程で生まれた仮説や思考の変化についてスタッフがインタビューをしました。生徒たちの感想や、自分の行動や気づきを第三者に客観的に伝える機会と共に、丁寧に思考のプロセスを紐解いていきました。



2回目のインタビュー

更に2週間後に再びインタビューを実施しました。日常に戻ってこの体験を振り返ってもらい、この授業を思い出したこと、活かしたことなどをヒアリングしました。「市販のクッキーを食べている時に食感を気にした」「毎日料理を作ってくれるお母さんに感謝した」「冷凍ご飯を温めるときにオートではなく自分で温度を調整してみた」などの意見が聞かれ、これまで学校で行われてきた評価方法以外の側面を生徒たちから聞くことができました。これらの子供たちの言葉を丁寧に拾っていくことで、生徒たちのもつ創造性の評価軸となる材料が可視化されました。

講師紹介

◆パナソニックホールディングス株式会社   高田 和豊(たかたかずとよ)

現在パナソニックホールディングス(株)テクノロジー本部主幹研究員。2016-2019 年 MIT Media Lab/ Lifelong Kindergarten Group 客員研究員。人工知能分野における人の認知機能のモデル化や認知状態の推定、創造性教育に関する研究に従事している。博士(工学)。 


◆フードデザイナー 中山晴奈(なかやまはるな)

東京藝術大学大学院先端芸術表現修了。 在学時より食べ物を使った美術表現の研究論文及び表現について製作・発表する。行政や生産現場と連携して食をコミュニケーションツールにした総合的なデザインを行う。

撮影:塩見浩介 

写真提供:山口情報芸術センター[YCAM]